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物忘れ・認知症

その物忘れは、
忘れっぽいだけでしょうか?

誰しも日常生活で物忘れをすることがあります。

テレビに出ていた俳優の名前が思い出せない、朝食に何を食べたか忘れた、買うはずのものを1つ忘れて帰ってきてしてしまった等、これらは「健忘」と呼ばれ、どなたでも経験することで、ほとんどの場合は異常なものではありません。しかし、認知症の一症状になると病的な物忘れであって、本質的に健忘とは違うものです。

アルツハイマー型認知症は認知症の中で最も割合が多く、主な症状は物忘れになりますが、患者様は特に直近に起きた出来事を記憶するのが困難になります。この症状は記憶を司る海馬と呼ばれる脳の領域が萎縮することによると考えられています。

認知症は、その定義として、「正常に発達した認知機能が、後天的な疾患などの様々な理由によって次第に低下し、家庭生活や社会生活を送るのが困難になった状態」とされています。

認知症で起こる症状

認知症になると、中心となる症状(中核症状)
としての認知機能低下とともに、
周辺症状としての行動や心理
に関係する症状が生じます。

中核症状

記憶障害

記憶には様々な分類方法があります。まず、覚えている時間の長さによって、瞬間的な即時記憶、数分から数ヶ月までの近時記憶、それ以上の遠隔記憶に分類されます。

また、出来事の記憶であるエピソード記憶と、一般的な知識・情報の記憶である意味記憶に分類されます。あるいは、計算方法や知識を頭で覚える陳述的記憶と、楽器を弾く方法・二本足で歩く方法など体で覚える手続き記憶に分類することもできます。

これらのいずれかに障害が起きることを記憶障害と言います。


見当識障害

今日の日付や現在の時刻、自分がいる場所、周囲にいる人々などの、自分が置かれている基本的な状況を把握する能力を見当識と呼び、見当識を失った状態を見当識障害と言います。見当識障害はアルツハイマー型認知症の初期から観察される症状ですが、同じような症状でも病的でない場合もあります。

アルツハイマー型認知症


失語・失認・失行

失語は言語に関する症状で、話すことができない、文を読むことができない、文字を書けない、相手の言うことが理解できないなどの症状があります。
失認は五感に関する症状で、例えば視覚・聴覚などに機能的異常がないのに、見えているもの、聞こえているものを、感覚を通じて正しく認識できなくなります。
失行は身体能力や行う意思があるのに目的の運動ができない症状が現れます。例えば、着替えができない、道具がうまく使えないなどが生じます。

いずれも、今までできていたことができなくなる場合に、失語・失認・失行と認定されます。


実行機能障害(遂行機能障害)

実行機能とは、複雑な計画を作成し、順序だてて実行し、計画通りに進んでいるかを確認し、場合によっては中止する能力のことです。

並行して複数のことを行ったり、想定外の事象に臨機応変に対応したりする場合には、様々な脳機能を組み合わせて行う高度な認知機能を必要とします。この機能には、主に前頭葉が中心的役割を果たしていると考えられていますが、こうした実行機能がうまくいかない障害を実行機能障害と言います。

 

周辺症状(行動・心理症状)

幻覚・妄想

現実には存在しないものや音が、見えたり聞こえたりすることを幻覚・妄想と言います。

例えば、レビー小体型認知症の患者様は、現実には目の前にいない人が見えるなどの幻視を見ることがあります。妄想は、事実と異なることを事実であると思い込んでいることで、明らかな反証があってもその確信は保持されたままで、訂正が難しいです。例えば、自分のものを盗まれるなどの妄想や、配偶者が浮気をしているなどの妄想があり、そのために家族や介護者との関係が悪化してしまうこともあります。

レビー小体型認知症


不安・抑うつ

自分が病気であって、以前とは違う自分であることを自覚した時、気分が落ち込んだり、漠然とした不安感に襲われることがあります。なお、老年期のうつ病は、外見的には認知症のように見えます。しかし、詳細に調べると、認知機能が残っていることがあるため、その点で認知症と区別が可能です。適切に治療するためには、正しく診断する必要があります。


興奮・暴言・暴力行為

認知症になると、興奮し、自分で感情を制御できなくなり、他人に対して過激な態度になります。大声で叫んだり、罵ったり、暴言を吐いたり、殴る、掴む、噛むなどの暴力を働いたりもします。自分の要求が通らないとか、プライドが傷つけられたと感じた場合にも暴言や暴力を働くことがあります。


徘徊

認知症になると、辺りを徘徊するようになり、特に夕方になると「そろそろ家に帰ります」と言って外に出ようとするため、転倒・事故などを起こすリスクがあります。


せん妄

せん妄は、健常人でも、手術や入院など急激な環境の変化や、身体ストレスによって起き得る意識障害の一種です。認知症の方では、感染症、便秘、脱水、薬剤の変更などちょっとした出来事がトリガーになって、思考、記憶、感情、注意力などに障害が起きます。せん妄になったら、誘因を除去し、適切に治療することで正常な状態に戻ります。

 

軽度認知障害(MCI)

認知症は日常生活に多くの影響をもたらしますが、軽度認知障害はその手前の状態で、認知症ではないものの正常とも言えない状態です。

軽度認知障害では、軽度の認知機能低下は認められるものの、日常生活は普通に送ることができ、ほとんど支障がありません。軽度認知障害は長期間安定していることもありますが、認知症へと進む場合もあります。最近の研究では、認知症に至る前の軽度認知障害の段階で治療することが効果的であるとされており、早期診断がますます重要になっています。

認知症を引き起こす疾患

認知症を引き起こす疾患認知症を引き起こす疾患は数多くありますが、日本で最も多いのはアルツハイマー型認知症で、全体の60〜70%を占めます。次に多いのが脳血管性認知症で、約20%を占めます。

これら以外にも、梅毒、甲状腺機能低下症、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、ビタミンB1/B12欠乏症などの認知症があります。これらは治療可能な症例もありますから、正確に診断し、適切に治療することが重要です。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は記憶障害が主症状で、物忘れが多くなったり、同じことを何度も繰り返し尋ねたりすることなどから認知症が発覚します。

特に近時記憶が障害されやすく、初期には過去の出来事を覚えているものの、悪化に伴って過去の出来事の存在を完全に忘れてしまうことがあります。これをエピソード記憶の障害と言います。さらに、日付が分からなくなったり、知っている場所で迷子になったりするなど、初期の段階から時間や場所の見当識も障害を受けます。その他、言語障害や行為障害、実行機能障害も生じます。

初期段階では感情や礼節は維持されており、穏やかでにこやかに過ごしていますが、症状が進行すると徘徊、物盗られ妄想、介護に対する反抗などの周辺症状が現れます。

通常、アルツハイマー型認知症は65歳以上で発症しますが、稀に65歳未満で発症する若年性認知症もあり、発症年齢が若いほど症状が速く進行するとされます。

脳血管性認知症

脳出血や脳梗塞などの脳卒中によって起きる認知症を脳血管性認知症と言います。

脳卒中の結果として現れる主な症状には呂律不良や半身麻痺があり、認知症とは直接的な関係がなさそうですが、脳血管性認知症では微小な病変が多発することで認知機能が低下します。また、単発の病変であっても、認知機能を司る部位に障害を受けると認知症を引き起こすことがあります。
脳卒中発作が起こるたびに認知症の症状が階段状に悪化することもあります。

さらに、言語障害、呂律不良、自発性の低下、歩行障害、尿失禁など、障害を受けた脳の部位によって多様な症状が現れます。

レビー小体型認知症

レビー小体認知症の症状は、パーキンソン病に似た運動機能障害、進行性の記憶障害や幻視です。

脳内にはパーキンソン病と同様のレビー小体が多数観察されることもあって、パーキンソン病と区別することが困難であるとされています。幻視はレビー小体認知症に特徴的な症状で、実際には存在しない人物や小動物が見えることがあり、「部屋の中にたくさん人がいる」とか「子どもが自分を見ている」などの訴えをします。また、認知機能が変動し、意識障害が急激に発生することもあります。

その他、寡動(かどう:動作そのものが遅くなる)や筋固縮など、パーキンソン病に似た運動障害があり、これらによって転倒することもあります。さらに、パーキンソン病とは、レム睡眠行動障害や自律神経障害があることも共通しています。

パーキンソン病

前頭側頭葉変性症
(前頭側頭型認知症)

この認知症は、多くは65歳以前に、前頭葉や側頭葉の神経細胞が失われて機能が低下することで発症します。

礼儀のない行動や社会常識を逸脱する行動を取り、万引きなど反社会的な行為をすることもありますが、本人には罪の意識がありません。また、自発性が低下し、物事に無関心になり、感情が平坦になるなど、性格が変化します。さらに、毎日同じコースを散歩するというように毎日同じ行動を行うといった常同行動も現れます。

認知症の検査
(VSRAD:ブイエスラド)

VSRADとは

VSRADとはVSRADとは、脳の萎縮度を測る画像診断システムで、アルツハイマー型認知症を早期に発見するために用いられます。

記憶に関係する海馬、海馬傍回(かいばぼうかい)、扁桃の萎縮度を調べます。MRI検査から得られたデータをVSRADソフトにより解析し、脳の萎縮度を数値化します。診断は、健康な方の脳の萎縮度との比較により行われます。

VSRADが検査する部位

アルツハイマー型認知症では、脳の中心付近の内側側頭部分(海馬、海馬傍回、扁桃)から萎縮が発生します。このため、アルツハイマー型認知症を早期に発見するためには、内側側頭部の萎縮度を確認することが重要です。

VSRADでは、内側側頭部の萎縮の程度を0~3の4段階の数字で評価します。萎縮度が0~1の場合、脳の萎縮はほとんど確認されず、アルツハイマー型認知症の可能性は低いと評価されます。1~2の場合は若干の萎縮が確認され、2~3の場合は強い萎縮が確認され、アルツハイマー型認知症が強く疑われます。

検査を受けるには?

対象年齢は50歳以上となりますが、50歳未満の方でも検査は受けられます。

なお、50歳未満の方の場合、解析結果に個人差が大きく、データの信頼性が下がってしまいます。また、MRI検査の一環として行われるため、VSRAD検査だけを受けることは通常できません。検査時間はMRI検査に追加で5分ほどかかり、全体を通して20~30分ほどとなります。

認知症の治療

認知症には、根本的な治療が可能な認知症と治療不可能な認知症があります。

例えば、甲状腺機能低下症などの内分泌疾患、ビタミンB1欠乏症・ビタミンB12欠乏症・葉酸欠乏症などの代謝性疾患、自己免疫性疾患、呼吸器・肝臓・腎臓疾患、神経感染症などの内科的疾患、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫などによって起きる認知症は治療が可能です。

一方、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症、前頭側頭型認知症などの変性性認知症は根本的な治療が困難です。

治療可能な認知症においては、症状を軽減し進行を遅らせることが治療の目標です。治療法は薬物療法と非薬物療法に分けられ、患者様1人ひとりに適した治療法をご提案いたします。

認知症の予防

POINT!

認知症は突然発症する疾患ではなく、脳内の変化は相当前からゆっくりと進行しているとされています。

そのため、日常の生活習慣をチェックし、規則正しい生活を送り、バランスの取れた食事をとり、適度な運動を行うことで、認知症のリスクを低下させられるという報告は沢山あります。

バランスの取れた食事

バランスの取れた食事栄養面を考慮しながらバランスの良い食事をとりましょう。

高血圧や糖尿病は脳梗塞のリスク因子となるので、脳血管性認知症の発症率も高めますが、アルツハイマー型認知症になるリスクも高めることが知られています。

また、アメリカで開発されたマインド食がアルツハイマー型認知症の発症予防に効果的と言われています。この食事は、高血圧予防食と地中海料理を組み合わせたものになります。鶏肉、魚、玄米などの全粒粉、野菜、豆、ナッツ、オリーブオイルなどを多めにとり、アルコールはワインをグラス2杯までとし、チーズ、バター、赤み肉、ファストフード、お菓子は避けることを推奨しています。

適度な運動

毎日約30分のウォーキングの他、自転車、水泳、ガーデニングなど体の重荷にならない程度の運動を長期間続けることが重要です。

頭を使って楽しめる活動

読書、美術館巡りのような知的活動、パズル、クロスワード、トランプなどの知的ゲーム、編み物など指先を使った趣味など、頭を使って楽しめる活動を行うことが重要です。

喫煙、肥満

中年期以降、肥満は認知症の要因となるため、摂取カロリーに注意しましょう。また、喫煙も認知症の要因と考えられるため、禁煙に取り組みましょう。

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