腰や背骨に生じる痛み
人が二本足歩行による生活をすることで生じる腰や背中の痛みは、避けられないものだと言われています。
痛みの原因には、日頃の姿勢、加齢による骨や軟骨、靭帯などの変化、腰や背中に負担となる作業などがあると考えられています。他にも、内臓疾患、感染症や腫瘍、精神的なストレスなどにより痛みが現れる場合もあります。
腰や背中の痛みの大半は、整形外科で診療を行う筋肉や骨の障害によるものです。一般的には、無理に痛みのある箇所を動かさず安静を心がけることにより、数週間程度で軽快します。少しずつ痛みの程度が和らぐようであれば、しばらく様子を見ても構いません。
痛みが現れる人の特徴、きっかけ
腰や背中の痛みは、悪い姿勢や重労働を続ければ誰にも起こり得ます。しかし、原因もなく1ヶ月以上痛みが持続する場合は、筋肉や骨などの障害や他の病気によるものかもしれません。
筋肉や骨の障害に起因する病気には、腰痛、足の痛みや痺れを伴う椎間板ヘルニアが挙げられます。また、加齢が関与する変形性脊椎症、脊椎すべり症、脊柱管狭窄症なども考えられます。
圧迫骨折が起きる骨粗鬆症では、腰や背中に痛みが生じる場合があります。
他には、腰や脊椎の感染症、悪性腫瘍やその転移により痛みが出るケース、狭心症や心筋梗塞などの心臓疾患による背中や肩などの痛み、うつ病などの精神的症状が身体に現れる腰や背中の痛みなどもあります。
腰痛は背骨の問題?
直立は、重力に逆らう姿勢のため抗重力筋の働きが必要です。その中で脊椎を支える筋肉には、背中の脊柱起立筋、お腹の腹筋群、おしりの大殿筋があります。
これらの筋肉がバランスを取ることで脊椎の自然なS字カーブを保ちます。
しかし、いずれかの筋肉が弱くなる、作用が強まる、肥満になるなどの変化が起きると、本来の姿勢が崩れ腰痛が生じます。また、腰椎の第4、第5腰椎部分には、全体重の6割もの力がかかると言われています。運動不足、加齢、肥満などによって、姿勢の保持に必要な腹筋、背筋などの筋肉が衰えると、脊椎のS字カーブに変化が生じて腰痛を引き起こします。
腰痛の予防や改善には、単に背骨に目を向けるだけでなく、日頃の姿勢や運動不足による筋肉の弱まり、肥満などによる脊椎S字カーブの変化にも注目して対応することが大切です。
腰や背中の痛みを引き起こす
姿勢や背骨の変形(ゆがみ)
猫背
猫背とは、猫のように背中が丸くなっている姿勢を指します。
脊椎は、上から頸椎、胸椎、腰椎の3つに区別され、全部で24個の骨があります。
この4つの部分で背椎のS字カーブができており、そのうち、頸椎と腰椎は反る、胸椎と仙椎は丸くなるという前方と後方の湾曲を形作ります。この時、胸椎での後弯が強くなる状態が猫背です。猫背は、円背と呼ばれることもあります。
猫背の姿勢になると、背椎が本来持つS字カーブが崩れて衝撃を上手く吸収できなくなるため、身体に大きな負担がかかってしまいます。
側弯症
頭から骨盤までを繋ぐ脊柱は、正面から見た時には真っ直ぐに、横から見た時には頚椎は前方に、胸椎は後方に、そして腰椎は前方に向かって弯曲することでS字カーブを形作りバランスよく身体を支えています。この本来の形状が崩れることを脊柱変形と言い、左右に曲がったものを脊柱側弯症と呼びます。
腰や背中の痛みが生じる疾患
ぎっくり腰(急性腰椎症)
ぎっくり腰は、正式には急性腰痛症と呼ぶ疾患です。
何らかの出来事を発端に、突然生じる激しい腰の痛みが特徴です。この時、X線検査でも異常が見られないことが多く、神経痛や麻痺などの症状もありません。現在のところ、ぎっくり腰の原因は明らかになっていません。
多くのぎっくり腰は、数日〜1ヶ月程度で軽快していきます。
椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアとは、椎体の間でクッションの役割を果たす椎間板が変性し、後方に飛び出た状態を言います。
腰椎椎間板ヘルニアでは、馬尾神経や神経根を圧迫するため、腰痛、一般に坐骨神経痛と呼ばれる下肢の痛み、痺れなどが生じます。 腰椎椎間板ヘルニアは、急に悪化する場合と慢性的に症状が続く場合があります。20代〜40代の方に多く見られ、スポーツ中だけではなく、日常生活の中で突如発症することも多い疾患です。
治療は、保存療法と手術療法の2種類で、大半はヘルニアがあっても、神経根の炎症が落ち着けば症状が改善されるため、保存療法が行われます。椎体後方の靭帯を破り突出するヘルニアは、自然に吸収されることもあります。
脊柱管狭窄症
脊椎には、脊柱管(せきちゅうかん)と呼ばれる脳から身体へ続く神経の通り道があります。太さ1~2cmの管が、頭から出て首を通り腰まで達しています。この脊柱管から手足へ分布する神経が伸びています。
腰部脊柱管狭窄症とは、脊柱管が腰の部分で砂時計のくびれのように狭くなる病気です。これにより、腰から下に分布する神経の影響が出ます。具体的な症状として、腰の痛み、歩行障害、臀部(でんぶ)の痛みや痺れ、足の筋力低下、足の痛みや痺れ、排尿障害などが挙げられます。間歇跛行(かんけつはこう)または間歇性跛行と呼ばれる症状がよく知られており、これは、少し歩くと足の痛みや痺れで歩けなくなるものの、少し休むとまた歩けるようになるというものです。排尿障害は、初期には頻尿、夜間尿が見られ、その後残尿感、失禁が起こるようになります。
脊椎圧迫骨折
脊椎圧迫骨折とは、背椎に力がかかり潰れて変形する骨折のことで、骨密度の低下した高齢者に多く生じます。
原因は、尻もちをつくなどの転倒の他、重い物を持ち上げた、咳やくしゃみをしたなど些細なものもあります。ご自身でも気付かないうちに脊椎に骨折を起こし、背中が丸くなってしまう場合もありますので、注意が必要です。
心筋梗塞
心臓に血液を供給する冠動脈に血栓ができて血流がなくなり、心臓の筋肉が壊死してしまう病気です。
胸の痛みだけでなく、背中に強い痛みを生じる時もあります。
うつ病
精神面の症状がほぼ毎日、2週間以上続いて、日常生活に影響が出る病気です。
精神的な痛みが腰や背中といった身体の痛みとなって現れることもあります。